ドライブ・マイ・カー
こんにちは、チョコプリンです。
今回レビューする『ドライブ・マイ・カー』は、
第74回 カンヌ国際映画祭 脚本賞受賞(日本映画史上初) ほか全4冠達成、第94回 米国アカデミー賞 作品賞(日本映画史上初)・監督賞・脚色賞・国際長編映画賞の4部門にノミネートされ、
見事!国際長編映画賞を受賞しました!!!
2021年に公開されてから海外で高く評価され、国内でも逆輸入的に話題になり、日本アカデミー賞8冠に輝いた作品です。
近くの映画館でも再上映が決まり、これは見に行かないとなと思い家族で観に行きました~!
作品情報
村上春樹の短編小説集「女のいない男たち」に収録された短編「ドライブ・マイ・カー」を、「偶然と想像」でベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞した濱口竜介監督・脚本により映画化。 映画.com
◆原作短編小説集
データ
英題 : Drive My Car
製作年 : 2021 映倫区分 : PG12
製作国 : 日本 上映時間 : 87分 映画.com
あらすじ
舞台俳優で演出家の家福悠介は、脚本家の妻・音と幸せに暮らしていた。しかし、妻はある秘密を残したまま他界してしまう。2年後、喪失感を抱えながら生きていた彼は、演劇祭で演出を担当することになり、愛車のサーブで広島へ向かう。そこで出会った寡黙な専属ドライバーのみさきと過ごす中で、家福はそれまで目を背けていたあることに気づかされていく。 映画.com
登場人物(キャスト)
◇家福悠介(西島秀俊) …舞台俳優、演出家
◇渡利みさき(三浦透子) …ドライバー
◇家福音(霧島れいか)…脚本家
◇高槻耕史(岡田将生)…俳優
感想
観る前は、前評判で"村上春樹節がすごい"、"長くて静かな映画"というのを目にしていたので、どんな映画なのかドキドキしていました。
私自身、村上春樹の小説にも濱口竜介監督の作品にも一度も触れたことがない人間で、とんでもなく合わなかったらどうしようかと思っていたのですが、
思いの外、『ドライブ・マイ・カー』の世界を楽しめましたので、魅力を感じた点やその他の印象をまとめていきます!
これが村上春樹か…
始まりからですね、かなり戸惑いました。
裸でベッドに横たわる西島さんと語りかける霧島さん。「ヤマガがなんとかかんとか〜」徐に話し始めます。これを聞き逃したら後半読み取れないかもしれないと思って、集中して聴き取りました。
登場人物の人物像も分かりやすい訳ではなく、このいかにも文学的なスタイルが村上春樹かと…、初めは3時間どうなるのか全く想像出来ませんでした。
性描写も2回ほど長めにありまして、そうなる理由を考えてもちょっと苦手でした。男女の絵が綺麗だからマシではありますけど。
派手ではないが静かでもない
この戸惑いを和らげたのは、話しの面白さです。
短編小説に新たに古典要素を入れて、3時間という長尺で三つのお話を成立(リンク)させている。
その過程、独特なテンポと世界観が興味深くてついつい引き込まれてしまう感覚です。
一つ一つの場面がどう感じるか問いかけられてるようで、静かな映画とは思わなかったですね。
カメラワークも面白い視点が多くて、余計にそう感じました。
この辺が合わなくてつまらないという意見もあるみたいですね。
物語が進むと、段々と台詞を読むような口調が癖になってきます。
劇中の劇の練習でもあるように、感情を入れないことで大切な場面でより感情の波が伝わる、疎通できる役割を担っているようでした。
小説の世界を一緒に旅している気分にもなれます。
淡々とでも真に迫る演技
演技に関しては、基本的に淡々として感情があまり感じられません。
だからこそ、ストーリーが進むにつれて、それぞれの傷や思いがじわじわと出てきて、最後にはそれがグッと迫ってくる印象を受けました。
主人公家福を演じる西島秀俊は、妻を亡くした喪失感を抱えたまま今まで通り日常を送る男性が、自分自身の傷と痛みを自覚する過程を、憂いを帯びた表情で演じきっています。
その家福の専属ドライバーとなるみさきを、三浦透子が高い演技力で表現。表情の変化があまり無いのに味がある、存在感の大きさを感じました。
そして!今作で一番驚いた、というより驚かされたのが、岡田将生です!
今までの彼の印象はすらっとしていて骨格が綺麗、ハンサムで好感度の高そうな俳優というイメージでした。
それなのに劇中では、好青年に見えておべんちゃらを並べる自制の効かない高槻という人物そのものに見えます。後半、車内での長台詞のシーンは目が離せませんでした。すごくハマり役だったと思います。
切り取り可能な場面たち
先ほどからの“派手ではないが静かでもない”や、“淡々とでも真に迫る演技”といった内容と重なる部分もあるんですが、この作品を見て思ったのは、切り取り可能な場面が多いということです。
それは風景であったり演出であったり、バチッとはまっているからこそ、その一瞬を切り取って写真みたいに心の中で保存したくなる、その映画を象徴するシーンの数々です。
特にそう思ったのが、岡田将生演じる高槻が事を起こしたあと、サーブに乗り込み家福と亡くなった音の話をするシーンです。その語りは美しくも狂気じみていて、二人を交互にアップにする画も相まってグッと引き込まれました。
予告編でも目立っていた、家福とみさきがサンルーフを開けてタバコを持つ手を挙げる場面も良かったですね。中指を立ててるみたいで。
それ以外だと、音響や色彩も印象的です。音響はBARでのシャッター音やざわつきがすごくリアルで驚きました。世界観に没入しやすかったです。
色彩は、この作品のタイトルにもなっている車の赤色や、空に海、雪景色まで色の散りばめが綺麗です。
閉幕と始まり(ネタバレ有)
劇『ワーニャ伯父さん』のラストは、ユナ演じるソーニャがワーニャ伯父さんを後ろから包むように手話で話しかけます。この時、ソーニャの手話を目で追いながら、頭の中では音の声で語りが再生されました。サーブでのドライブで飽きるほど聴かされたからこそ、ここで活きたのだと思います。
また、「ゆっくり休みましょうね」と手話が幕を閉じるような動きが合わさって、なんだか위로 받는 느낌(慰められる感じ)でした。私自身、韓国語を勉強しているのもあって、この言葉が思い浮かびました。
ここでのパク・ユリムも良かったです。透明感と真っ直ぐ温かい雰囲気が素敵でした。
そして、物語のラストは、韓国のスーパーで買い物をするみさきから始まり、駐車場に停めてあるサーブに乗り込みます。その車内には韓国人夫婦の愛犬の姿も。
ラストはもうちょっと含みがあっても良かった気がしますが、前向きな終わり方で希望を感じました。あと、二人が性的関係にならなかったのも好印象です。
まとめ
前評判の通り、村上春樹節か濱口監督節かは分かりませんが、文学的な作風に戸惑いは感じました。やっぱり長いことは長い(トイレを我慢する程度) ですし、苦手なシーンもあります。
それでも、あんまり観たことないジャンルでしたが、中々楽しめました。面白かったです。
”他者の心は覗けない、自身の傷と痛みに気づいて初めて時間が動く…”をじっくり描いた良作です。
人と向き合うことについて共通点がありました。
満足度
4.5 /5点満点中