百花
(C)2022「百花」製作委員会
こんにちは、チョコプリンです。
今回レビューする『百花』は、菅田将暉と原田美枝子がW主演で話題のヒューマンドラマです!
普段なら観ないタイプの作品(泣ける邦画)なんですが、優待チケットがあり観に行ってきました~。
予想外のカウンターを食らったので、是非一読していただけると嬉しいです。
作品情報
プロデューサー、脚本家、小説家などの肩書を持つ川村元気が、自身の小説を自らメガホンを取って映画化。認知症により記憶を失っていく母親と、母を支える中で封印していた過去の記憶と向き合う息子の姿を描く。息子を『花束みたいな恋をした』などの菅田将暉、母親を『愛を乞うひと』などの原田美枝子、息子の妻を『MOTHER マザー』などの長澤まさみ、親子を隔てる母親の秘密を知る男を『あん』などの永瀬正敏が演じるほか、北村有起哉、岡山天音、長塚圭史らが出演する。 シネマトゥデイ
◆原作小説
データ
製作年 : 2022 映倫区分 : G
製作国 : 日本 上映時間 : 104分 映画.com
タイトル『百花』の読み方は「ひゃっか」です。
あらすじ
過去のある事件をきっかけに、すれ違うようになった葛西泉(菅田将暉)と母・百合子(原田美枝子)。結婚した泉に子供が産まれようとするころ、百合子が認知症と診断される。彼女の記憶が失われていく一方で、泉は親子の時間を取り戻すかのように献身的に母を支えていた。ある日、泉は母の部屋で1冊のノートを見つける。そこには彼が決して忘れることのできない事件の真相がつづられていた。 シネマトゥデイ
登場人物(キャスト)
◇葛西百合子(原田美枝子)…泉の母親
◇葛西香織(長澤まさみ)…泉の妻
感想
家族で観に行きましたが、劇場を出た後、みんな揃いも揃って涙目だったのでなんだか恥ずかしかったです。(笑)
我が家では好評の今作、Filmarksを見ると賛否両論あるみたいですね。
アンソニー・ホプキンス主演『ファーザー』の二番煎じ、分かりにくい等の意見もあれば、
演技が良い、感情移入して泣けたという高評価もありました。
私自身『ファーザー』は未見なので、純粋に良い点・悪い点をまとめていきたいと思います。
静かに鬱々しく進む物語
母と息子、過去のある事件が原因で2人の間には今も残る溝があります。
年末に母の家を訪れた泉。どことなく距離感があり居心地が悪そう。母の行動に居た堪れなくなった泉は妻の香織からの電話にも、母親の泊まっていくのかと言う言葉に対しても嘘をついて出て行ってしまいます。
序盤でなんとなくその言動の理由は想像できますが、
事件となった空白の一年間に何があったのか、認知症の症状の進行とともに過去が鮮明になっていきます。
病気の進行は、徘徊・万引き・記憶の混濁を引き起こします。中でも、百合子が昔の男と息子を重ね合わせるような表現が度々出てきてキツい…。
泉も封印していた過去の記憶が時折り蘇ったりと嫌でも向き合わざる終えません。幼少時代、公園で遊んだり一緒に釣りをしていた様子が切ないです。
前半はこういった心が痛い、抉るような描写が続きます。特に派手な展開がある訳ではないですが、静かに伝わるものがあり、
母親に対する「やめてよ」の一言に、抵抗感・嫌悪感といった泉の抱える心理的負担を感じて、心がギュッと締め付けられました。
新たな映像手法とそれを支える演技
母の過去が明かされるきっかけとなった日記。
その回想映像はシーンの切り替えが少なく冗長に感じました。それに加えて、ループ表現やカメラ揺れがありかなり酔います…。(※酔いやすい人注意)
これについては、作品のインタビューの中で、“全編ワンシーンワンカット”を採用していて、「人間の脳の働きを表現したい」という監督の想いが語られています。
上に挙げたデメリットがある一方で、役者の演技にとってはプラスになっていたと思います。キャラクターがより自然に感じられて、感情移入しやすかったですね。
正直、主演2人の演技には驚かされました。
菅田将暉の鬱々と溜め込んで今にも泣き出しそうな表情や佇まい、後ろ姿を見て苦しくなり、
原田美枝子さん演じる百合子のどうしようもないところと認知症のリアルな表現に引き込まれました。特にループの視点で視ているとなんだか怖くなりました。
“半分の花火”とタイトル『百花』の意味とは?(ネタバレ有)
過去のある事件というのは、母親がある日メモ一つで自分を捨てて出て行ったことですね。
その空白の一年の真相は、百合子が神戸に単身赴任する大学教授の浅葉についていき、2人で新生活を始めたというものでした。
浅葉は妻子持ちであり、先のない関係だと分かりながら子供を捨てた百合子。つがいの金魚鉢が象徴的でしたね〜。
それなのに、震災が起こり瓦礫の中を歩きながら海に浮かぶ朝日を見たとき、頭にあったのは息子の泉のことだった。
そんな母親が何度も口にする“半分の花火”が分からない泉。花火大会に連れて行っても母は駄々をこねるばかり。
その言葉の意味が分かったのは、実家の整理が終わり縁側で居眠りしてしまったときでした。
打ち上がった花火が向かいのマンションに遮られて半分だけ見えています。昔息子と縁側で見た半分の花火がどうしても見たかった母。それが分かった瞬間、泉に起こるフラッシュバックと花火の映像は、切なくも綺麗でした。
半分の花火も母にあげた一輪のお花も泉は忘れていて、母はずっと覚えていた。一緒に行った釣りの記憶も母の記憶が正しかった。
覚えていること忘れていること、そこに愛はあったんだ。
これは、監督が語ったタイトル『百花』の意味からも汲み取ることができます。
そうかもしれないですね。
花火は大きな打ち上げ花火だけでなく、手に持つ花火も楽しく幸せな思い出をつくってくれますよね。花火って幼いころは家族と一緒にするもの。どこで誰と火を灯したのかが鮮明に記憶に残る。花火の記憶を作り出す力はやっぱりちょっと特別なものがありますね。
劇中では儚い一瞬の美しさを、花火や花に投影しています。すぐに消えてしまうけれど、記憶の中には残り続けるもの……。儚いからこそ、その人の心の中に残り続けるものに特別な思いがあります。
『百花』というタイトルには、花ような儚く美しく、けれども最後に残る「百の記憶」を託しました。 大人のぽりぽりクラブ
母への謝罪の言葉は、母親を許す意味でも許せない自分を許すという意味でもあったんじゃないかと思いました。
認知症の症状が進んだ段階で分かったというのも、“許す”ことを美化していなくて良かったです。
要は、自分を解放するための物語で着地点だと感じました。
まとめ〈○○な人に刺さる映画〉
個人的に家庭環境に問題があるorあった人に響きやすい映画だと思いました。自分の心の救済方法を考えるきっかけになるかもしれません。
それは、人によっては距離を取る、絶縁する、話し合って思いをぶつけることだったり、この作品のように愛を知るというのもその一つですね。
ワンシーンワンカットが合わない、過去と現在の切り替えがわかりにくい、母の言動が許せないという意見も理解出来ます。
だけど、私にとっては予想外に涙が溢れる作品でした。4分の3静かに鬱々しく進んで、最後に心動かされる。劇場を出た後も余韻が残りました。
関連作品
『ファーザー』
名優アンソニー・ホプキンスが認知症の父親役を演じ、「羊たちの沈黙」以来、2度目のアカデミー主演男優賞を受賞した人間ドラマ。
満足度
★4 /5点満点中