女神の継承
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こんにちは、チョコプリンです。
今回レビューする『女神の継承』は、韓国映画界が誇るナ・ホンジン監督が原案・プロデュースしたタイホラーです!
『哭声 コクソン』がマイテイストなのとジャケットデザインに惹かれ鑑賞しましたー!
作品情報
「チェイサー」「哭声 コクソン」のナ・ホンジンが原案・製作、ハリウッドリメイクされた「心霊写真」や「愛しのゴースト」を手がけたタイのバンジョン・ピサンタナクーン監督がメガホンをとった、タイ・韓国合作のホラー。 映画.com
データ
原題 : ร่างทรง,랑종 英題 : The Medium
製作年 : 2021 映倫 : R18+
製作国 : タイ・韓国合作 上映時間 : 131分 映画.com
あらすじ
タイ東北部の村で脈々と受け継がれてきた祈祷師一族の血を継ぐミンは、原因不明の体調不良に見舞われ、まるで人格が変わったように凶暴な言動を繰り返すようになってしまう。途方に暮れた母は、祈祷師である妹のニムに助けを求める。ミンを救うため、ニムは祈祷をおこなうが、ミンにとり憑いていたのは想像をはるかに超えた強大な存在だった。 映画.com
登場人物(キャスト)
◇ニム(サワニー・ウトーンマ)…祈祷師、女神の巫女を継承
◇ミン(ナリルヤ・グルモンコルペチ)…ニムの姪
◇ノイ(ラニ・ヤンキッティカン)…ミンの母
感想
今夏は『呪詛』に『X エックス』、『哭悲/THE SADNESS』、そして今作とホラー作品が目白押しです。
まだまだ暑いので納涼にぴったりですね。自然豊かな背景ですし。
鑑賞後、キャッチフレーズの“怒涛の恐怖エンターテイメント”とは違った印象もありましたので、
良い点・悪い点をまとめていきたいと思います。
土着信仰モキュメンタリー
まず、『女神の継承』は代々土着信仰の霊媒を継ぐ家の女性たちを追ったモキュメンタリー作品です。
モキュメンタリー(英: mockumentary)は、映画やテレビ番組のジャンルの1つで、フィクションを、ドキュメンタリー映像のように見せかけて演出する表現手法である。モキュメンタリーは擬似を意味する「モック」[1]と、「ドキュメンタリー」を合成したかばん語であり、「モックメンタリー」「モック・ドキュメンタリー」ともいう。また、日本における別称の「半自伝」、和製英語の「フェイクドキュメンタリー」「ハーフドキュメンタリー」「セミドキュメンタリー」「ハーフフィクション」「セミフィクション」も用いられる。 Wikipedia
とあるように、タイ東北部の村で信仰されている「バヤン」という神の霊媒・媒体であるニムを取材する様子から物語は始まります。
長期的に日常を追う体だからか、3分の2は蝕まれる様子をテンポゆっくり描いています。これが、体感長い…。
ホラーの前置きが後半とのギャップを狙ったものだとしてもちょっと冗長ですね。
もちろんミンを中心に怪奇現象は起こりますが、本当にじわじわと追い詰められていく感じで静かです。
加えて、進行を邪魔しないためか、撮影班に人間味がないのがちょっと引っ掛かりました。ミンが職場で寝落ちしたり血を流してる時も声をかけません。
ストーカーみたいで怖いし、声かけろよーって心の中でぶつぶつ…。その方がリアリティあると思うんですが。
なんやかんや言いましたが、この手法で良かったのは、中盤以降で、
血がカメラに飛んだり、心身ともに追い込まれたミンがカメラをジッと見るカットだったり、視聴者側に働きかける演出があったことですね。
特にラストスパートはモキュメンタリーである意義が盛り込まれているので、次の項目で説明したいと思います。
この辺が以前書いた『呪詛』と通ずるところもあるので、良ければ合わせてご一読ください~。同じ土着信仰・POVホラーです。
エンタメホラーとは(ネタバレ微)
後半になるとストーリーがグッと動き出します。ミンに憑いた凶悪な“何か”を祓うため、ニムと友人の祈祷師を中心に儀式の計画を立てます。
吉日までの数日間、部屋にいるミンを監視する視点と、廃工場での儀式の準備・進行が描かれるんですが、
部屋での様子は、『パラノーマル・アクティビティ』さながら定点カメラで凶行を捉え(※犬好き要注意)、
廃工場での儀式は、『コンジアム』と似た雰囲気の中、『コクソン』を彷彿とさせる激しさで行われ(※目が回るので酔いやすい人注意)、
それまでの静けさから一転、儀式の異様さとカメラクルーの使い方は良かったですね。
撮影班が体を張って自らPOVホラーを表現してくれています。ジャケットにもなっている呪文が書かれた布を被って血を吹き出す様はインパクトあり。
まさに“怒涛の”、“エンターテイメント”といった言葉がぴったりの展開です。
俳優陣の演技も良く、ミン役のナリルヤ・グルモンコルペチの怪演が光っていますし、
ニムやおじさんのタイでリアルにいそうな現地感も設定としっかり馴染んでました。
ただ、“恐怖”という点に関しては、しっちゃかめっちゃかそんなに怖くない。
ふと出てくるコメディ要素に笑ってしまうんですよね。
それもホラーとコメディが表裏一体とかではなく、単純にシュールで笑えてくるんです。特に儀式要員が隊列的に犬化するところがすごい。笑
怖いというより心臓に悪い演出は何か所かあります。ホラーの王道、特大のジャンプスケアがあるんですが、そのシーンは見事にビクッとなりました…。
前半でしっかり世界観に入り込めてたら、このジャンプスケアや怒涛の展開をもう少しバランス良く楽しめてたかなと思います。
信仰と不信(ネタバレ有)
最後まで人助けに奔走していたニムは儀式前日に眠りながら亡くなり、
儀式当日、部屋に閉じ込めていたミンを解放してしまったことで、赤ちゃんも祈祷師たちも、撮影スタッフもみーんな阿鼻叫喚色んな死に方をします。
そして、最後に残ったミンと母のノイが対峙し、ノイは生きたままガソリンをかけられ焼かれます。全滅バッドエンド…。
そんな地獄絵図から切り替わり、ラストカットはニムが亡くなる前の取材映像で終わります。
“今まで一度も女神を感じたことがない”
霊媒として女神バヤンを信仰してきたニムは自身の神の存在を疑ったことで見放され、
ニムに継承の役割を押し付け女神を拒否したノイと、かつて処刑人だったヤサンティア家の恨みを背負った男が結ばれた結果、その娘のミンに呪いが降りかかった。
要は、信仰と不信、人間の業と厄災といったところでしょうか。
そこまで深く根を張ってない状態で終わってしまった印象でしたね。
『コクソン』のアナザーバージョンということですが、比較するとコクソンの方がバランス良くカオス具合を楽しめました。
理由としては、先ほど書いた撮影班の人間味のなさであったり、あとは性的シーンの扱いに興を削がれたというのもありますね。こういったホラーが不条理かつ悪霊によって欲が解放されるのも分かるんですが、劇中、性的シーンが必要でも不必要に感じる入れ方で気になりました。
例えば、職場で男とする場面は無駄に3カット12秒くらいあるし、憑りつかれたミンが自室でおじさんに食ってかかるところも、あんなに胸を露出する必要があるのか疑問です。
女性の生理現象を使った怪異に至っては、恐ろしい怖いというよりも、現実にかえって心配が先に来てしまいました…。
女性への抑圧を表現しているとの意見も見ましたが、単純に露出・表現が激しいだけでメッセージ性はあんまり伝わって来ませんでしたね。
まとめ
期待値が上がっていただけに、正直もやもやした部分はありますが、
後半のカオスさは見て損はないと思います。
タイの自然と湿度、日常の空気感であったり、不穏な雰囲気まで伝わる作品でした。
タイトルの“女神の継承”については、シャーマン、霊媒師を意味する英題の“The Medium”の方がシンプルで合ってるかな。
関連作品
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満足度
★3 /5点満点中