CLOSE クロース
(C) Menuet / Diaphana Films / Topkapi Films / Versus Production 2022
シリアスだけどみんなに観てほしい…!
こんにちは、チョコプリンです。
今回レビューする『CLOSE クロース』は、仲の良い少年2人に起きた出来事を丁寧に描いたクィア映画です。公開時に注意喚起が出たことで話題になりましたね。
重たいテーマに少し尻込みしていた今作、感想と気になった点をまとめていきますね〜。
◆鑑賞のきっかけ◆
監督のインタビュー内容が良くて興味が湧いたから。
作品情報
『Girl/ガール』で第71回カンヌ国際映画祭のカメラドール(新人監督賞)などを受賞した、ルーカス・ドン監督による青春ドラマ。13歳の少年同士の関係を映し出す。エデン・ダンブリン、グスタフ・ドゥ・ワールのほか、エミリー・ドゥケンヌらがキャストに名を連ねる。第75回カンヌ国際映画祭コンペティション部門グランプリに輝き、第80回ゴールデン・グローブ賞非英語作品賞にもノミネートされた。 シネマトゥデイ
データ
原題 : CLOSE 製作年 : 2022 映倫区分 : G
製作国 : ベルギー・フランス・オランダ合作 上映時間 : 104分 映画.com
あらすじ
友同士である13歳のレオ(エデン・ダンブリン)とレミ(グスタフ・ドゥ・ワール)は、学校でもプライベートでも行動を常に共にしていた。だがある日、あまりにも親密すぎることをクラスメートにからかわれたことから、レオはレミへの接し方に戸惑い、彼についそっけない態度をとってしまう。二人の仲は次第にぎくしゃくしていき、ささいなことで大げんかになる。 シネマトゥデイ
登場人物(キャスト)
◇レオ(エデン・ダンブリン)
◇レミ(グスタフ・ドゥ・ワール)
◇ソフィ(エミリー・ドゥケンヌ)…レミの母
感想
鑑賞前から『CLOSE クロース』は内容が重たそうだったので、もしかしたら自分の理解が追い付かなかったり、良い感想が思い浮かばないかもしれない…と謎の不安感があったんですが、
実際に観てみると心をしっかり動かされましたし、すごく泣きました…。とはいえ、いわゆる“泣ける感動作品”ではなかったので、その辺のことも書こうと思います。
タイトル『CLOSE』の意味と壊れゆく関係
タイトルは本作の内容を考えると、close=近い、親しいという意味で、何をするにも一緒なレミとレオの2人の関係を表す一言です。
秘密基地でごっこ遊びをしたり、花畑を無邪気に走り抜ける。そんな他者を介在しない空間と結びつきは、学校という独特な場所に入り変わっていってしまう。
学校は教育を受けて知識を、集団生活の中で社交性を身につけるところではありますが、思春期の子供たちにとっては新しい価値観に出会う場所でもあります。
そこで、劇中描かれている価値観はどうかというと、そんなポジティブなものではなく、人を抑圧するホモソーシャルな空気感でした…。
ホモソーシャル(homosocial)は、女性と同性愛(ホモセクシュアル)を排除することによって成立する、男性間の緊密な結びつきや関係性を意味する社会学用語です。
1976年にジーン・リップマン=ブルーメンが、性的な意味ではなく社会的な意味での「同性の仲間への選好」をホモソーシャリティ(homosociality)と定義しイヴ・セジウィックの1985年の著書『男同士の絆』によって広く知られることとなりました。
ホモソーシャルは体育会系な男社会に典型的に見られ、女性をモノのように扱ったり男に仕える存在として見下げたりするようなミソジニー(女性嫌悪)と、同性愛を盛んに侮蔑したり気持ち悪がったりすることで「自分はホモじゃない」と仲間にアピールするようなホモフォビア(同性愛嫌悪)を特徴とします。 OUT JAPAN
ここでレオとレミが受けたのは、じろじろと見定めるような視線たちです。
スキンシップ、距離感、眼差し…
どれをとっても、他人による解釈の中では、恋愛や性愛関係じゃないとおかしいんですよね。ジェンダーバイアスもかかりまくりで。
そんな風にみられる居心地の悪さから抜け出してその場に馴染むためには、普通の男の子らしくするしかありません。それはタフなスポーツをして、スキンシップを避けて、みんなで群れることです。多分これがレオの視点で、レミからすると築き上げてきたものたちとの断絶です。
ホモソーシャル社会が定義する“親密さ”が彼らの関係性を壊す、これに尽きます。
本当は恋人であろうが親友であろうが家族みたいな仲であろうが、周りには関係のないことなのに、それに苦しめられていく様子がただただ痛々しいです。
この作品はその過程を丁寧に丁寧に描いています。
そして、少年たちの演技が上手いのはもちろん演出もすごいんです…!
抽象的な演技と演出
劇中、べらべら心情を話したり分かりやすいジェスチャーはありません。状況の詳細説明もないし、あるのはキャストの繊細で自然な演技とそれに合わせた演出の数々です。
演じているというよりはそこにいるような存在感がちょうどよくて、スッと物語の世界に馴染むことができました。特にレオ役のエデン・ダンブリンの目の演技が良かったですね~。『クロース』をイメージするなら、まずレオの眼差しが思い浮かびます。
言葉数は少なくても目の動きや震えで伝わってくるものがあります。
演出も同じで、過度にドラマチックにせず、心情に連動するように風景や天気、音まで変わっていくのが見事に表現されていて、観ながら単純にすごいなぁと感心していました。
どちらも抽象的といえばそうなんですが、一つ一つがハマっているからこそ深く繊細な物語に仕上がっている気がします。
消費感の少ないストーリー展開
過度にドラマチックにしていないと言いましたが、鑑賞前に一点だけ心配な部分がありました。
それは、LGBTQ作品もしくはクィアなキャラが登場する作品では、サッドエンドや“悲劇”が高確率で起こり、感動や切なさを盛り上げる障壁として消費されることです。
それを念頭に置いて鑑賞していましたが、今作は、
思春期のゆらぎであったり2人のセクシャリティというよりは、壊れる関係に焦点を当ててじっくり描いていたと思います。俗に言う悲劇(=自死)が登場しますが、サプライズやどんでん返しとしては機能しておらず、個人的にはあまりエンタメ消費していないと感じました。自死そのものよりも悲劇全体を見つめている印象です。
他にも、感情のローラーコースターを作るために、もっと罵詈雑言、差別的な言動やいじめがあってもおかしくないのに、そういった演出や展開は用意されていなかったので、
個々の人の印象よりも社会全体の問題だということがより明確になっていて良かったです。
これらは監督が当事者であることによるフィーリングがあるかもしれません。インタビューでもそれが感じられました。
その他、感情を揺さぶられた理由を考えてみると、演技と演出によって感情移入しやすかったという点もありますが、
幼さが残る頃の残酷な痛みを共感できたこと、それも大きかったのかなーと思います。
だからこそ、心が締め付けられて息が詰まって何度も涙が溢れました。
ただ、観る人によっては若く美しい少年たちの切なくも泣ける感動映画!映像美!となっているんだろうな~と…。実際そういう感想をちらほらみて複雑な心境にはなりました。でも何を感じるかは人それぞれだしなという気持ちもあって、難しいところですね。
あと、現実を違和感なく反映させるのは何より大事ですが、それを描きつつクィアの暖かな日常を感じられる作品が増えればいいなと常々思っております…。例えば、個人的な好みで言うと『作りたい女と食べたい女』や『HEARTSTOPPER』ですね。
まとめ(ネタバレ有)
レミが亡くなってからは、レミの母親ソフィとの関係が描かれていますが、
主人公が自責の念を告白する場面で、ソフィがレオに対し、あなたのせいじゃないといった慰めの言葉をかけませんでした。かといって冷たいわけでもなく…それが逆にリアルに感じましたね。相手家族との分かち合い感動シーンがないのが、現実的な流れで物語に説得感を持たせています。
そこからラストまでは少し駆け足に感じたんですけど、主人公が自分の心と向き合うまではゆっくり描くという表現方法なのかもしれません。
『CLOSE クロース』の終盤は、ハッピーエンドの希望に溢れたものとは違うかもしれませんが、
痛みと向き合う過程を描く、再生への一歩であることは間違いないと思います。特に、最後のレオのショットは、花畑を一緒に走っていたレミがいないこと・心にはいることを同時に感じているように受け取れました。
上記に付け加えると、この映画は、
・人によっては些細に見えるからかいや空気感を矮小化せずしっかり事の大きさを伝えている
・本人たちではなく周りが関係性を決めつける有害さを痛々しいほど丁寧に観客に見せる、クィア映画
といった内容で、本当に胸が締め付けられますが、観てよかったしみんなに観てほしい作品です!
満足度
★5 /5点満点中